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 星座の神話 定説検査(18)

アンドロメダ座の頭とおうし座の角(つの)の先



まとめ

アルフェラッツ(Alpheratz=αAnd)とエルナト(Elnath=βTau)は2星座で共有されていましたが、1928年天文学連合により、それぞれアンドロメダ座とおうし座の所属と決定されました。プラネタリウムなどの星座解説で、「アルフェラッツは「馬のへそ」の意味。星座の所属がアンドロメダ座となったのは、馬のへそが無くなるよりアンドロメダ姫の頭を優先したため」という説が語られることがあります。
しかし、両星の所属が決められた理由は説明されていません。また、アルフェラッツは「馬の肩(または単に馬)」の意味です。


検証・考察

アンドロメダ座とペガスス座
Celestial chart by Andreas Cellarius - Haemisphaerium Stellatum Boreale Antiquum(1660)の部分切出し
おうし座とぎょしゃ座
Bode1801_Hemisphear の部分切出し
星座の中には、ひとつの恒星が2星座にまたがって共有されているものがあります。アルフェラッツ(Alpheratz=αAnd)とエルナト(Elnath=βTau)です。これらは一人二役の星です。
アルフェラッツは、アンドロメダ座とペガスス座の重なる位置にあって、アンドロメダ座の頭とペガスス座のお腹を共有しています。エルナトは、ぎょしゃ座の右足とおうし座の左角(つの)を共有しています。このため、近代の天文学者バイエル(Johan Bayer 1572-1625独)は、全天星図ウラノメトリア(1603年)において、アルフェラッツには「アンドロメダ座α星」と「ペガスス座δ星」を、エルナトには「おうし座β星」と「ぎょしゃ座γ星」の二つの識別符号を与えました(1603年)。
バイエルから3世紀後、天文学の発展に伴い、星座の境界線を決める必要が出てきました。国際天文学連合は第2回総会(イギリス・ケンブリッジ 1925)で、この仕事をウジェーヌ・デルポルト(Eugene Joseph Delporte 1882-1955ベルギー)を座長とする「星座の科学的表記分科会」に委嘱しました。そして、デルポルトらは国際天文学連合第3回総会(オランダ・ライデン 1928)において、南天をのぞく星座の境界線を提案し承認されました。アルフェラッツとエルナトは、境界線の策定と同時に星座の所属を決める必要に迫られたために、アルフェラッツはアンドロメダ座に、エルナトはおうし座の所属に決定されました。 アルフェラッツは「馬の肩(または単に「馬」)」に由来する固有名ですし、エルナトが無くなるとぎょしゃ座は五角形ではなくなってしまうことになり、おかしな感じになります。しかし私たちが、星座を眺める時には天文学で定める所属をあまり堅苦しく考えることなく古来の星座を楽しみたいものです。

さて、日本の解説書やプラネタリウムなどでの星座解説で紹介されるお話に、次のものがあります。

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○ アルフェラッツは「馬のへそ」の意味である。ペガススのへそが無くなるよりも、アンドロメダ姫の頭が無くなると大いに困ることなので、星座の境界線を引くにあたり、アルフェラッツはアンドロメダ座の星と決められた。
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この説はもっともらしいのですが、二つの間違いがあります。まず、星名研究のPaul Kunitzsch and Tim Smart の「 A Dictionary of Modern Star Names」によると、アルフェラッツは、前述の通りアラビア語で「馬の肩(または単に「馬」)」の意味です。もう少し正確に記すと、アラビア語で「馬の肩 mankib al-faras」が省略されてこの固有名になったと考えられています。ただし、アルフェラッツには シラー(Sirrah)という別名があり、こちらがアラビア語で「へそ」の意味です。
さらにデルポルトは、アルフェラッツとエルナトの所属をそれぞれアンドロメダ座とおうし座に決めたことについて、何も説明を残していません。
ちなみに、エルナトはアラビア語で「(角で)突くもの」を意味する「al-nath」に由来しています。古く数人のアラビアの著者は おひつじ座α星に「Nath」と名付けていましたが、後世誤って、おうし座β星の固有名に移行したと考えられています。エルナトは、おうし座にとってふさわしい名称ですが、一方で天文学上のぎょしゃ座は右足を失うことになりました。


※ 出典,参考文献
技術評論社「星空大全」(早水勉 著)


更新履歴
2024. 11.28 初版掲載


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