星座の神話 定説検査(3)
月の女神アルテミス,セレネ,ディアナ,ルナの関係
まとめ
古代ギリシアにおいて本来の月の女神はセレネで、アルテミスは夜の女神でした。時代が下るとともに、
アルテミスとセレネは同一視されるようになり、アルテミスがセレネを飲み込んでいきました。
ディアナとルナは、それぞれアルテミスとセレネのローマ神話上の名称です。
検証・考察
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アルテミス像 (BC100年頃) ギリシャ・デロス島出土(アネテ国立考古博物館 所蔵)
アポロンとアルテミスは、デロス島で誕生したとされており、そのデロス島で出土した像。
オリジナルはBC4世紀のヘレニズム期の模刻作品。
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もっとも流布している、「アルテミス=月の女神」という確固としたプロフィールは、
意外なことに古代でも比較的新しい時代以降のものです。 トマス・ブルフィンチ(1796-1867 米)によると、
BC5世紀頃のアテネではアルテミスは、女神ヘカテーに、また時には女神ペルセポネに混同されていました。
明るいイメージのアルテミスに対して、真逆の暗黒のイメージを持つ、
ヘカテーやペルセポネが同じだったという歴史はまったく理解に困ることでしょう。
ヘカテーは、当時有力な女神でしたが、さらに古くヘシオドス(BC8世紀頃)は、神統記の中で長々と称賛し
「星散りぼえる天にも特権を授かり、かくて不死の神々の間でもとりわけ慕われている」と記しています。
ヘカテーは魔法や妖術の女神で、夜になると地上を歩き回り、十字路や三差路に現れました。
そしてその姿は犬にしか見えませんでした。夜、犬が吠えるのはこの女神がやってきたことを知らせるものだと
信じれられていたのです。ペルセポネも霊界神ハデスの妃ですから同一視されました。
ヘカテーが夜の暗さと恐怖を表現するのと同様に、アルテミスも夜の女神で、このことから時代を下ると
月の光の美しさを表現するようになりました。
また、ヘカテーとは「遠く弓射る者」「射手」の意味で、このこともアルテミスが弓を携えて狩猟する姿に
吸収され置き換わっていきました。
月はそもそも本来は、タイタン族の神ヒュペリオンとテイアの娘セレネの姿とされていました。
セレネの兄が太陽神ヘリオスです。しかし、徐々にセレネとアルテミスは同一視されるようになり、
しだいにセレネの位置づけは弱くなっていきました。この事情は、本来の太陽神ヘリオスが後発のアポロンに
飲み込まれて行った事情とたいへんよく似ています。
セレネは、ローマ期になるとルナ(Luna)と呼ばれるようになりました。 そして、アルテミスは、
ローマ期にはローマの女神ディアナ(Diana)と同一視されます。なお、ディアナの英語読みがダイアナ)です。
※ 出典,参考文献
月刊星ナビ 2020年9月号 「エーゲ海の風」
(早水勉)
更新履歴
2021. 1.7 初版掲載