目次へ戻る
目次へ戻る

 星座の神話 定説検査(6)

うお座/二匹の魚をつなぐ紐



まとめ

うお座は、紐でつながれた二匹の魚の星座であるが、この紐の説明に 「アフロディーテとエロスが姿を魚に変えて逃げたときに、お互いがはぐれないようにするためにリボンで結んだ」 というものがあります。この挿話は古典にはなく、Julius Staal(英 1917-1986) が創作した話 である可能性があります。


検証・考察

ヒュギーヌスの「天文詩(Poeticon Astronomicon)」に記されたうお座。1482年発行の版より。 (Linda Hall Library Digital Collections)
アフロディーテとエロスの化けたうお座
うお座も秋の代表的な星座です。うお座は、二匹の魚がリボンで結ばれた形になっています。 この、うお座に込められたギリシア神話を紹介しましょう。

「愛と美の女神アフロディーテとその子エロスが、ユーフラテス川の岸を歩いていたとき、 いきなり怪物テュフォンが現れ、二人に襲いかかってきました。母子はあわてて魚に姿を変え 川に飛び込み逃げました。ふたりはお互いがはぐれないようにリボンで結びました。 この魚に化けて逃げたときの姿が うお座 になり、母子が二匹の魚がリボンで結ばれた星座となっています。」

このお話も例にもれず、プラネタリウムではとても人気のあるものです。 ところが、「二匹の魚がリボンで結ばれている理由」は古典神話だけではなく、 主要な海外書に見出すことができません。この「リボンの説明」は、おそらく日本だけで流布している可能性 があります。 そもそも二匹の魚の由来に関しては、古典神話の中にたいへん多くのバリエーションが存在します。 怪物テュフォンが現れたときに変身した神々の中には、牧神パーンが上半身はヤギで下半身が 魚の姿になった神話はよく知られていますが、近代の神話学者トマス・ブルフィンチ(1796-1867)は、 「アフロディーテは魚になった」としか記していません。面白いところでは「アポロンはカラスに, デュオニソスは山羊に,アルテミスは猫に,ヘラは牝牛に,ヘルメスは鳥に…」等多数言及しているのに 童神エロスについては記載がありません。一方、古代ローマ期のマリニウス(AD30-40)は、 うお座の魚をアフロディーテとエロスを助けた魚としています。
これまでに筆者が見出したところでは、「二匹の魚は女神アフロディーテとその子エロスの変身」とする由来は、 古代ローマのヒュギーヌス(Hyginus BC64年頃〜AD17年)の「天文詩(Poeticon Astronomicon)」 しかなく、「ヴィーナス(アフロディーテのローマ名)と彼女の息子を危険から回避するために 自分たちを魚の姿にかえた。」と記されています。

以上:[出典] 月刊星ナビ 2020年11月号 「エーゲ海の風」(早水勉)



以下は、上記の記事を執筆後さらに調査した結果です。
うお座の紐に関する記述に次のものがあります。

「星座ガイドブック秋冬編/藤井旭」(1975)より
ギリシア神話では二匹のこの魚は、愛と美の女神アフロディーテとその子エロスが、 ユーフラテス川の岸を歩いていたとき、いきなり怪物テュフォンが現われ、二人に襲いかかってきたので、 この親子はあわてて川に飛びこみ、魚に化けて逃げたときの姿であるとしています。 そして、アテナ女神がその事件の記念として、リボンで結ばれた親子の魚の姿を星の間に加えたと 伝えられています。

「The New Patterns in the Sky」(1988) Julius Staal(英 1917-1986) より
So both Venus and Cupid changed into fishes and disappeared into the dark blue waters of the sea. In order not to lose each other they tied themselves together with a long line.
訳/ そして、ヴィーナスとキューピッドは、魚に姿を変えて青い海の暗闇の中に姿を消しました。 二人は離れてしまわないようにお互いを長い紐でつなぎました。

(注)ヴィーナスとキューピッドは、それぞれ、アフロディーテとエロスのローマ名

二匹の魚をつなぐ紐の理由は、古典神話にはなく、後世に創作された挿話と考えられます。 Staal のこの記述が冒頭の紐の説明として流布している可能性があります。 Staal の記述にはもうひとつ誤りがあります。アフロディーテとエロスが飛び込んだのは、 海ではなく川です。
星座研究家の Ian Ridpath(英 1947- )氏 によると、この「The New Patterns in the Sky」には、 Staal 自身が創作した話や、信頼できない情報源による話が多く掲載されているということです。


※ 出典,参考文献
月刊星ナビ 2020年11月号 「エーゲ海の風」 (早水勉)


更新履歴
2021. 1.7 初版掲載


目次へ戻る
目次へ戻る