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くじら座のモデルは、海の怪物ケートスです。この怪物がなぜ「くじら」と訳されたのでしょうか。 原語ギリシャ語のケートスは「海の生き物,海の怪物」の意味がありますが、 ラテン語のケートスは「くじら」の意味です。これが英語でも誤解され「The Whale」と当てた訳があります。 これを日本ではそのまま「くじら」と訳したものと思われます。
グロティウス星座図帳(Hug.Grotii Syntagma Arateorum 1600)の「くじら座」。この星図は、古代ギリシア初期のアラトスの世界観を表現したもの。 表題には、PISTRIS(海の怪物)と記されています | 「ウラニアの鏡」の くじら座。「ウラニアの鏡(Urania's Mirror /英)」は1824年に出版されたカード集 |
うみへび座と同様にくじら座も広大な星座で、全天でも4番目の面積を持っています。 この星座のモデルとなっているのは、古代エチオピア王家の物語で、アンドロメダ姫を襲う海の怪物ケートスです。 この怪物は、英雄ペルセウスによって退治されるという挿話は、プラネタリウムでも人気でよく紹介されています。 古代ギリシア中期の詩人アラトス(Aratus?BC315年〜BC240年頃?)はファイノメナに次のように記しています。
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かなり離れたところに展開しているとはいえ、アンドロメダは迫り来る巨大な海の怪物に脅えている。
彼女がトラキアからの北風に吹きさらされながら道をたどれば、南風がいやなやつを連れてくるのだ。
その海の怪物は牡羊と二匹の魚の下方に、そして星のきらめく河(エリダヌス座)のすぐ上にいる。?
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ファイノメナは、歴史上初めて書かれた星座解説書で、すでにこの「怪物」のキャラクターが成立していたことが分かります。
くじら座の英語表記は、「Cetus」の他「The Whale(クジラ)」「The Sea Monster(海の怪物)」とされており、 このうち「The Whale」がそのまま和訳されて「くじら座」が正式名となっています。 星座研究家のイアン・リドパス(英)氏によると、ラテン語の Cetus では「クジラ」の意味がありますが、 オリジナルのギリシャ語でケートスは、「巨大な海の生き物」か「海の怪物」を指し、 英語による「The Whale」は明らかな誤訳であると指摘しています。 神話の系譜によれば「The Sea Monster」の方が適切で、このため星座絵では実在するクジラとは、 まったく異なる怪物が描かれています。
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