光軸と極軸の平行誤差


1. 「光軸と極軸の平行誤差」とは

「光軸と極軸の平行誤差」とは、望遠鏡を天の北極に向けた時の、視野の中央(光軸)と天の北極とのズレのことです。 この誤差の対策はやっかいです。なぜなら世の中のほとんど全ての望遠鏡と架台において、この誤差を調整するための機構が備わっていないからです。 おそらく、まだこの問題についての認識が世間に浸透していないからだろうと思われます。

この誤差は、自動導入において最も悪影響を及ぼす機械的誤差であります。誤差が導入精度に及ぼす程度は、赤道儀の赤経軸と赤緯軸の直交精度に よく似た傾向を示しますが、直交精度は設計上当然のこととして製作されているのに対して、「光軸と極軸の平行誤差は調整すらされていない」 「調整のやりようがない」のです。反射光学系においては、向きによって鏡が傾いたり歪んだりすることもこの誤差の要因になります。
自動導入の精度を向上させたいならば、(他の誤差に比較してずっと深刻な)「光軸と極軸の平行誤差」を対策することを強くお勧めします。

2. 光軸と極軸の平行誤差の自動導入に及ぼす影響(計算式)

(1) この誤差の考え方
「光軸と極軸の平行誤差」は、球面三角上では「大円小円となる誤差」として現れます。(図1)
(図2)は、(図1)の望遠鏡において、視野の向きが天球上をどのように辿るかを示した球面図です。

■ 定義 ■
d: 望遠鏡の光軸と極軸の平行誤差

# 赤道上の 点A' でアライメントし赤緯軸を回転して 点S' に望遠鏡を向ける。
# 平行誤差が0であれば、視野は 天の北極P の方向を目指すはずであるが、
# 誤差があるためそうはなっていない。このとき、

δ : S' に向けた時の赤緯目盛
δ' : S' の真の赤緯
刄ソ: 赤経の導入誤差(A'−T)
刄ツ: 赤緯の導入誤差(δ'−δ)
とする
この 刄ソ,刄ツ が 自動導入において光軸と極軸の平行誤差の及ぼす影響となります。

(2) 自動導入において光軸と極軸の平行誤差の及ぼす影響の計算
(図3)は、(図2)の一部を抜き取ったものです。

PQ = PA = AQ = PT = 90°
A'Q = 90 - d


球面三角△PS'S より、∠S=90°だから
 cos(90-δ') = cosd・cos(90-δ)
 sinδ' = cosd・sinδ
よって
 刄ツ= δ'- δ = arcsin(cosd・sinδ) - δ  ---- (1)
ここで、誤差dを微小とすると、
 刄ツ= δ'- δ ≒ 0 となります
つまり、この誤差dが赤緯に与える影響はほとんどありません。

球面三角△PQS'S から ∠QPS'= QT を求める
 cos(90-d) = cos90・cos(90-δ') + sin90・sin(90-δ')・cos(∠QPS')
これを変形していく
 sind = cosδ'・cos(∠QPS')
 cos(∠QPS') = sind / cosδ'
 ∠QPS' = arccos(sind / cosδ') = QT
ここで(図2)より、
 A'Q = 刄ソ+QT
 変形して 刄ソ = A'Q - QT だから
 刄ソ = 90 - d - arccos(sind / cosδ')  ---- (2)
この式(2)は厳密な解ですが、近似的に、
 刄ソ = d / cosδ
と表すことができます。
どちらを採用しても大差ありません。
この式が意味するところは、赤緯δ'(≒δ) が高くなると、加速度的に赤経方向の誤差 刄ソ が拡大されるということです。
赤経の目盛りは、高緯度になるにつれて狭くなるので、誤差が拡大される効果があるのです。


(3) 実際の誤差の現れ方
下表は 式(1),式(2) に基づき、光軸と極軸の誤差 d が及ぼす 誤差 刄ソ,刄ツ を計算したものです。 「実質的な誤差」とは、赤経目盛りが赤緯が高くなると狭くなる効果を排除した数値「刄ソ・cosδ」です。 実質的な誤差は、高赤緯でもそれほど大きなものにはなりませんが、赤経目盛りが狭くなるため自動導入時の赤経方向の誤差 刄ソ が拡大されることがわかります。



下図は上表の刄ソをグラフ化したものです。赤道儀の赤経軸と赤緯軸の直交精度が及ぼす影響に よく似た傾向を示すことが分かります。このことは、刄ソの実測によって両者を区別することは困難(区別がつかない) ということでもあります。
数値そのものは、同じdに対して「赤道儀の赤経軸と赤緯軸の直交精度」が「光軸と極軸の誤差」 よりも常に大きな値を示します。しかしながら、「赤道儀の赤経軸と赤緯軸の直交精度」は意識されて設計製造されているのに対し、 「光軸と極軸の誤差」は通常は考慮されていないため、事実上誤差の大半を占めています。


横軸:赤緯(°) / 縦軸:誤差刄ソ(°)


2. 「光軸と極軸の平行誤差」を対策するアイデア

1.そもそも調整機構がないのでは修正できない。調整ネジなどの仕組みが必要。
2.赤緯90度(天の北極)に向けた時に、北極標準星野に照合しながら調整する。
北極標準星野での照合が難しい場合は、
3.子午線付近の恒星で位置合わせし、「反転導入」で同じ恒星を導入する。この時のズレが少なくなるようトライ&エラーで調整する。
SuperStar や Yoc の「反転導入」 は、そもそもこの調整を目的としてつくられたコマンドです。

望遠鏡を載せかえて使う赤道儀も多いので、調整機構は赤道儀側よりも望遠鏡側にあるのが望ましい。 自動導入が普及してくると必ず問題となる事柄なので、望遠鏡メーカーの自発的な開発を期待したいものです。


※ 角度の単位は断りのない限り「°(度)」で表記しています。

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