コズミックサーフィン -基礎データと推算手法-

コズミックサーフィン
企画:早水 勉(せんだい宇宙館 , 東亜天文学会)
制作:瀬戸口貴司(学校法人原田学園,東亜天文学会)
販売:株式会社 アストロアーツ
Since Aug.1999

コズミックサーフィンとは
 「コズミックサーフィン」は、まるで空飛ぶタイムマシンのように、 時間と空間を旅する天文シミュレーターです。
星空はいつ見ても不変のもののように感じています。しかし実際には、さまざ まな要因で星空は変化しています。その変化はあまりにも小さく、普段は全く無 視できるほどのものですが、数万年もの時間が経てば、この星空と言えども星座 を見まがうほどの変化をするのです。
 星空の変化は、時の経過だけではありません。他の星から見た星空はどうでし ょう。太陽系からとは全く違った夜空を見せていることでしょう。
 コズミックサーフィンは、
歳差(地球の地軸の首振り運動) と恒星の固有運動 を考慮して、40万年分の星空を再現し、また、他の星から見た星空も計算でき る、おそらく世界でも初めてのたいへんユニークなものです。
 例えば、こと座の ベガから見た10万年後の星空なんてものも表示できます。 また、10万年後の北斗七星は、ひしゃくの形 が崩れるだけでなく、8ケの星からなる星座に姿を変えています。
 これらは、ほんの一例! 星空の変化を楽しんで頂けるだけでなく、 天文の教育目的あるいは古代や遠い 未来の星空の研究にもお役に立てるでしょう。

■ミニギャラリー■ コズミックサーフィンの世界
ポラリスから見える南極星
歳差による北極星の回帰
エジプト時代の北極星
ミザールの伴星
αケンタウルスから望む太陽
5万年前は三つ子座
4万年後にほどける南十字
フォーマルハウトで出会う、織姫と牽牛
いつか見えてる超明るい二重星

コズミックサーフィンの...
仕様についてはこちらをご覧ください
入手方法
コズミックサーフィンは、株式会社アストロアーツ社より販売(標準価格:\3,800~)されています。 同社のホームページから直接オーダー、もしくは、フリーダイアル(0120-299792)のご利用が便利です。
開発の経緯も是非ご覧ください。

概  要
 恒星とは恒の星、つまり恒に同じ明るさで輝き、同じところにある星のことをいいます。
しかし、厳密にはいろんな要因で、恒星さえも動いていることが知られています。
それらを列記すると、
  a.年周視差:Parallax (周期運動)
  b.光行差 :Aberration (周期運動)
  c.固有運動:Proper Motion(長年運動)
  d.歳差運動:Precession (長年運動)
  e.章動 :Nutation (周期運動)
等など
 これらのうち、「年周視差」「光行差」「章動」は数十年以下の周期運動で、しかもその変化量は大変小さいので、 星図上の位置への影響は無視できます。しかし、「固有運動」と「歳差運動」 は非周期性の永久的な運動(このような運動を「長年運動」または「永年運動」と言います)なので、ごくわずかな動きではありますが、 長期間かけて蓄積されると、無視することの出来ない大きな変化となってしまいます。
コズミックサーフィンでは、時間の要素にこの「固有運動」と「歳差運動」の影響を考慮しています。


固有運動について
 固有運動とは、ひとつひとつの恒星の持つ固有の運動です。この固有運動により、長い年月のうちには星座の形も 変わってしまいます。
 固有運動は、「赤経方向の成分」と「赤緯方向の成分」の2つの値で示されることが一般的ですが、 現実には視線方向の運動(
視線速度)も存在します。 「赤経方向の成分」と「赤緯方向の成分」のみを考慮することでも、天球上の位置を近似的に推算できますが、 極めて長い時間を考える場合には、これでは不十分です。 より厳密な推算を得るには固有運動を空間運動としてとらえることが必要となります。
 コズミックサーフィンでは長大な時間を扱うために、固有運動を空間運動ととらえて 恒星の位置を推算しています。この方法に寄れば、恒星までの距離の変化も算出され、光度の変化も再現されます。


天球に投影された固有運動の持つ誤差の概念。
固有運動μは、空間的な運動を天球上に投影した角距離。
従って、これを年数分(上図では2年)だけ倍した位置は、正しい空間運動から推算したものとは微少ながら誤差が生じる。 上図は誤差を説明するために極めて誇張して作図してある。

固有運動に関してもっと詳しい説明と裏話はこちら

歳差運動について
 歳差運動は地球の地軸がコマのように首を振る運動です。 この運動のために、天の北極や春分点が、 ゆっくりと移り変わっていることは良く知られています。 歳差運動は地球の姿勢の問題であるので、単なる座標系の変動であります。歳差運動については厳密には問題が複雑で、 その表現については文献によっても微妙に異なっています。
 コズミックサーフィンでは、以下に示す「一般歳差による式」と「J.H.Lieskeの歳差式」のどちらかを選択して採用 できるよう設計されています。
 メニューの「時間」→「設定」の「歳差の計算式」において、
■ 「長期間で安定」にチェックすると「一般歳差による式」
■ 「短期間で厳密」にチェックすると「J.H.Lieskeの歳差式」
を用いて、位置の推算を行います。



■一般歳差について■
 歳差運動について、もっとも一般的に使われている表現は、日月歳差や惑星歳差など種々の歳差要因を、 ひとまとめにした「一般歳差」です。一般歳差の定数も、年代や文献によってわずかに異なっていますが、 コズミックサーフィンでは以下に示す、IAU1976年の天文定数系の数値を採用しました。
1. 一般歳差ψ=50.290966″+0.0222″T(/年)
  ここでTは、J2000.0からの時間経過をユリウス世紀(36525日)で表した量。
2. 黄道傾斜角ε=23.439291°
1. 式の第2項は歳差の加速成分といわれ、歳差運動が徐々にスピードを増していることを示します。 この方法で歳差運動を記述した場合、比較的長期間にわたり安定した結果を得られる特長があります。

■J.H.Lieskeの歳差式について■
 歳差運動をさらに厳密に記述するには、加速成分の高次部分や黄道傾斜角の年次変化についても考える必要が出てきます。
位置天文学の分野においては、IAU1976年の天文定数系変更の決議に従い、各国の研究者から、 より精度の高い定数系が提案されておりましたが、J.H.Lieske 他の研究者により発表された式が、 国際的に認められ現在に至っています。
 コズミックサーフィンでは、「短期間で厳密」な式としてこの式を採用しています。
しかしながら、数万年単位の非常に長い期間を当てはめると、結果は発散してしまい、安定しなくなります。

歳差に関して
もっと詳しい説明と裏話はこちら

空間の移動
 太陽系以外の、他の恒星から見た星空を再現するためには、座標を対象の恒星まで移動する必要があります。
コズミックサーフィンでは、座標移動を以下の前提にて実行しています。
年周視差のデータが「0″」の星は、「0.0001″」に置き換えて近似。
・ 座標は、太陽系(地球)「AD 2000年」の座標を平行移動する。
・ 同時に時刻を変化する場合は、歳差の影響は無視する。

空間の移動に関する裏話はこちら

補  遺
■年周視差■
 地球の公転により、1年周期で恒星の視位置が天球上を楕円を描いて運動するように見える。 この運動を年周視差という。年周視差は極めて微量であるが、原理上、近距離にある恒星ほど大きな量として観測される。
年周視差をΠ(単位:″)とすると、恒星までの距離d(光年)は、
  d=3.262/Π
となる。

■視線速度■
 恒星の空間運動の視線方向の成分。
視線速度は分光観測により、恒星の光のドップラー効果を測定して求められる。


参考文献
Yale Bright Star Cataloge 5th Revised Ed.,Yale Univ
長谷川一郎,天文計算入門,恒星社
長沢工,天体の位置計算増補版,地人書館
堀源一郎,天文計算セミナー,恒星社
早水勉,星空の時間旅行,九州大学天文愛好会"星くず"
江上和宏 他,Galaxy Atlas,九州大学天文愛好会"星くず"



文責:早水 勉